葉っぱのフレディ委嘱初演に寄せて

《伝えてよ、鳥たち。地球の上に、地平の彼方にも》
三善晃

大阪府合唱連盟から、第40回記念大阪府合唱祭の合唱曲の作曲を頼まれ、候補テキストとしての詩をかなり多く提供していただいた。趣旨として、「ひたむきに生きてゆく」ための真実・勇気・喜びを謳い、子供たちとそれを共有し、そのかたちで彼らにそれを伝えてゆくこととされた。21世紀の始まりが、現今の世界情勢に見られるような悲しむべき状況になった今日、この願いは人類の、むしろ切実な祈りでもある。だが、それにしては集まった詩は視野が限られているように感じられ、この普遍的かつ現実的な思いを託するにはためらいがあった。
西岡茂樹さんは《葉っぱのフレディ》を推された。初め、私はこれにも躊躇した。これは散文であって詩ではない。しかもその物語の表現は、美しい絵あってのものと思われた。
思案中の私に、西岡さんは控えめに、池田小学校の被害とその周辺の親子たちの心について語った。西岡さん自身もその一人だった。私は西岡さんの言葉を幻聴しながら《葉っぱのフレディ》を読み直した。
親子の心は「周辺の」に限らない、「日本の」いや「人間の」心の谺として私の裡に聴こえてきた。ある意味で、懐かしい谺だった。物質界から生物界が、更に生物界から心の世界が、入れ子のよう生まれているのではないかという自然科学者たちの謙虚な仮説も、この谺と響き合った。すると《フレディ》の絵から、私の言葉と歌が、手紙を銜えた鳥たちの群のように翔び立っていった。私はその鳥たちの飛翔の跡を五線紙に書き留めた。生きている私たちには見えないところまで、鳥たちは手紙を−祈りの音信を−携えて翔んでいってくれるだろう。