「三つの無伴奏混声合唱曲」について 

柴田純子


       

「三つの無伴奏混声合唱曲」は昭和32年(1957)に音楽乃友社の『世界大音楽全集―日本合唱曲集』にはいった。この曲の最初の印刷譜である。このころ柴田は12音技法で無調の音楽を作曲しており、解説に次のように書いた。

この曲を書いた前後には、やはりこのようなクラシックの音感による合唱曲がいくつもある。近頃では、合唱コンクール用の編曲とか校歌の編曲などのほか、こういう音は書かなくなってしまった。話は違うが近代の画家の手になる非常に写実的なデッサンというものは、また一種変つた興味を与えるものだが、僕がこの自分の合唱曲を何年ぶりかで取り出して眺めた感じも、いくらかそれに近いように思う。

アマチュアにも歌えるようにと、古典の形式や音感に頼り切ってかいたつもりだつたが、やはり自然と僕の特長が出ているらしい。と言うのは、あるときこういうことがあつた。畑中更予さんがNHKのどこかのスタジオをちよつとのぞいたら偶然この曲を練習中だった。と言うことは実はあとで判ったのだが、彼女は「なんだか知らないけど、たしかにあなたの曲をやつてた。ちよつと聴いてすぐ判った。」ということで、こちらはかえつてへえ、そういうものかなと思ったのだつた。

「三つの無伴奏混声合唱曲」は「追分節考」に次いで演奏頻度が高い。どれか一曲がアンコールとして歌われることも多い。三曲とも、「無限廣野」のような晩年の作品のあとで聴いても違和感がない。柴田は生涯を通して現代音楽の新しい技法を追っていたが、彼の音楽の本質はずっと変らなかった、とこの作品を聴くたびに私は思う。

豊中混声合唱団が取り上げてくださった柴田作品は、今夜の曲を含めて七つになる。八番めは「冬の歌」で、来年リリース予定の「柴田南雄とその時代 第二期」(CD・DVD)のために録音をお願いしてある。

       2010年7月 豊中混声合唱団第50回定期演奏会に寄稿いただいたもの