谷川俊太郎氏の詩に松下耕氏が近年に作曲した3曲を集めたもので1998年から2002年にかけて初演されている。2003年2月、カワイから出版されたのを機にとりあげた。3曲まとまった形での演奏は、関西では初めてであろう。
1.私たちの星
栗山文昭氏が主宰する“21世紀の合唱を考える会 合唱人集団「音楽樹」”が毎年5月に東京で開催している「東京カンタート」の委嘱により作曲された。原作は、児童3部と混声4部で書かれており、2002年5月3日、子供と大人による大合同合唱で初演されている。今回の出版では、コンパクトな混声4部となっている。数多の生命が共に生きる星、かけがえのない地球と生命への讃歌が、ピアノの美しい調べと共に歌われる。今、この曲を決して楽観的に歌うことができない状況であることに危機感が募る。合唱団がその厳しい現状認識に立脚し、その上でなお願わずにはいられない熱い思いを伝える演奏であってほしいと思っている。
2.あい
栗山文昭氏の還暦を祝う「だかあぽこんさーと」のために作曲され、2002年11月に初演されている。わずか5分ほどの曲であるが、その中で「愛」という言葉が118回出現する。この初演は、私も東京まで聴きにいったが、それは感動的な演奏であった。ア・カペラであり、多くの部分が6声で書かれている。さらに“「愛」とは?”と自分自身に次々に問い続ける心の微妙な動きを表現するために、常にデリケートで複雑なハーモニーが鳴り続け、それが次々に転調していくため、演奏はひじょうに困難である。しかし、その難しい譜面が、生身の人間の声でうまく表現された時、それは実に深い感動をもたらしてくれるのだ。若者ならではの「愛」の表現が、今日、きらめくいのちの滴のように美しく尊くほとばしり出ることに期待したい。
3.そのひとがうたうとき
芦屋高等学校合唱部OB会の委嘱で作曲され、1998年に初演されている。
松下氏は楽譜の解説でこう書いている。
「この曲は、祈りのうただ。平和への祈りを高らかに謳う。平和は、人と人の信頼の基に築かれることを実感しながら。我々合唱人は、『うた』を武器に、真の平和を勝ち取ろうとするのだ。私は合唱を愛するすべての人とともに叫びたい・・・・・・
うたおう、命の限り。
うたおう、愛する人々と。
うたおう、地球のために。
うたおう、祈りとともに。 ・・・・・・と。」
なお、ここでバラしてしまうのもどうかと思うが、もしアンコールがあったら、それは、まどみちお作詩、松下耕作曲の「うたをうたうとき」である。この曲は2001年に作曲され、未出版。ピアノを伴った美しいバラード。
客演指揮 西岡茂樹