常に、そのうち作曲したい詩のストックが手元にあるのだが、この方法を試みるにはある程度長い詩が必要である。短い詩では、あっという間に終わってしまう。これまで実にたくさんのコラボレーションをしてきた畏友池澤夏樹の、曲をつけるために作詞したのではない純粋詩の詩集から、一篇の長編詩を選んだ。南と海が大好きな男らしい雄大な作品だ。
「歌」というよりはっきりと「バラード」の方向を意識した。女声で演奏してもいっこうに差し支えないのだが、譚詩を聴かせていくいわば時間の幅を想うと、男声なかんずくバリトンがふさわしいように感じ、初演はその形で、ということになった。フレーズあるいはセンテンスで一音といっても、全編すべてそうなのではない。ある地点ではあえて「ふつうの方法」もとっている。ピアノは饒舌を避け、ストーリーが明確に聴き手に伝わることを願った。
オペラ、オーケストラ曲、合唱曲その他いくつもの作曲と平行し、加えてさまざまな雑務や旅も重なって、この他の完成は遅れに遅れ、田中信昭さんはじめ関係の皆さんを日々ハラハラさせてしまった。
この機会を僕に下さった「新しいうたを創る会」に感謝しつつ、他方お詫びの気持ちでいっぱいである。