南 聡氏への委嘱曲


    題名 :「幽霊鑑賞協会の歌」、 「…のあとに続く1つの詩と6つの項目による歌曲集」

       テキスト:新妻 博、鈴木淳史

       編成  :ソプラノ、ピアノ


南 聡氏プログラムノート(無断転載厳禁)

 

 《・・・のあとに続く1つの詩と6つの項目による歌曲集》は、1つの詩による3種の歌曲と、6つの項目を連接して1つにした歌曲の4つの歌よりなっている。詩は、札幌の詩人、新妻博さんの詩「範疇」をテクストに選んだ。

ここでは、1つの詩に3種類の全く違う書式の音楽を付けた。 曲集の1.2.4曲目にあたり、それぞれタイトルは<範疇T(はじめの)><範疇U(つぎの)><範疇V(おしまいの)>と付けてある。 <T(はじめの)>は最も節約した表現でかつ自然に、<U(つぎの)>はいささか時代がかった和声を伴ないながら音楽的装飾が加えられる。<V(おしまいの)>は最も今日的書式であるが、過剰な音楽的装飾がなされている。そして、かつやや悪い冗談めかした表情を持っているのであるが、おそらく詩はそれを許してくれることであろう。さらにこれらの歌曲は<T(はじめの)>では、この歌曲集より前に歌われる歌とアタッカでつながって、残りの曲も、前に歌われる歌の一部を転写して混入するようにスコアは要求している。曲全体が寄せ木細工のイメージを持っており、この部分は、寄せられた1つの記憶の断片として範疇の中に組み込まれて範疇を形成するのである。つまりこの歌曲集の前に歌われる歌によって常に変化してしまう部分でもある。したがってこれら範疇は独立していない、言いかえれば寄生木(やどりぎ)的寄せ木細工である。(なんていう範疇だ!!)今回は初演ということもあって自作の旧作の中の同じ新妻博さんの詩につけた歌曲を、《幽霊鑑賞協会の歌》を宿主として演奏して頂くことにした。(勿論この部分は、中田喜直でもシューベルトでも何でも可である。)

一方の3曲目の<6つの項目>テクストは詩ではない。当初普通の辞書からでもとるつもりであった。たまたま書店で洋泉社が出版していた鈴木淳史氏の「クラシック悪魔の辞典」という本をみつけ、ここから6つの項目を選ぶことにした。選んだのは演奏順に記すと「コンサート」「楽音」「アンコール」「カーテンコール」「ホール」「キャンセル」である。(新妻博さんの詩と違って、こちらは)テクストが明確な意味を持つので、音楽は逆にシンプルに調性で作ることにした。一項目ずつハ長調から3度ずつ下行していき最後の項目でト長調からハ長調に転調して終る。しかし単なるメロディーと伴奏という状態はできるだけ避け、対位法的アイディアを心掛けた。最後に、「キャンセル」ではディーリアスとR.シュトラウスの引用が組みあわされている部分がある(二人が知ったら怒るだろうなあ‥・)ということと、テクストの一部を割愛させて頂いたことを記しておく。

歌曲集としてひとまとまりになっているが、<範疇T(はじめの)>と<6つの項目>は独立した演目にすることも可と考えている。




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