野平一郎氏への委嘱曲



第5回(1998年度)



     題名:組歌曲 English Winds
     詩:林  望

     編成:ソプラノ、アルト、ピアノ



野平一郎氏プログラムノート(無断転載厳禁)

組歌曲 English Winds
 花野へ ひつじぐも 何を見たか みづうみ English Winds

林望氏からのパーソネル・ギフトである12の詩から成るEnglish Windsより、5編の詩に作曲したものである。非常に絵画的イメージの豊富な原詩の特質をそこなわないように、当初は室内アンサンブルが伴奏し、声域や声種の異なる4人の歌手のために発想されたが、今回はその最初の段階として上記の5曲をピアノ伴奏でソプラノ、アルトの2人の歌手のために書いてみた。5曲の内、ひつじぐも みづうみ English Winds の3曲が二重唱、花野へ がソプラノ独唱、何をみたか はアルト独唱のためのものである。

原詩の絵画的イメージはまた日の光が十分にあたるものから暗い光景へと展開し、音楽の中にその等価物、すなわち音色の十全なパレットを求めている。そのために調性に回帰することは避けつつも自分なりの協和音を不協和な響きとの対比で探すこととなった。特に曲の最初と最後に置かれている 花野へ とEnglish Winds でその傾向が顕著である。この2曲は響きの点でも、音のフィギュアの点でも共通するものが多く、曲集に一つのシンメトリーを与えている。特に両者の曲頭に出る長二度下行するモチーフは、一方では「旅への誘い」としての呼びかけとしてのそれ、他方では風をあらわすそれとなる。曲集全体を通じて、ピアノの役割は大変重要で、しばしば詩の喚起するものは言葉が歌われる部分よりも、ピアノが受け持つその前後の言わば音楽的注釈とでも言える部分で時間をかけて展開する。ひつじぐも では特にその傾向が強いが、この曲では同時にうたのパートも母音やハミングを使って、言葉からこほれ落ちたメロディーをうたい続ける。


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